糖質制限
糖質制限で眠くなるメカニズムとは?専門家が教える簡単対策3選
2025.05.25
糖質制限を始めてから日中に強い眠気を感じていませんか?「健康のために始めたのに、仕事や勉強に集中できない…」とお悩みかもしれません。その眠気、実は糖質制限のやり方が原因かもしれません。
この記事では糖質制限中に眠くなるメカニズムと、今日から実践できる具体的な対策を分かりやすく解説します。眠気を解消し、仕事のパフォーマンスを下げずに糖質制限を成功させましょう。
1. 【なぜ?】糖質制限で眠くなるのは体のサイン?
「糖質制限を始めたら、なんだか日中ぼーっとして眠い…」「大事な会議中なのに、あくびが止まらない…」なんて経験はありませんか?せっかく健康やダイエットのために意気込んで糖質制限を始めたのに、強烈な眠気に襲われると、仕事や家事に集中できなくて本当に困ってしまいますよね。もしかして、このやり方は自分に合っていないのかな…なんて不安になってしまうかもしれません。
でも、安心してください!実はそれ、あなたの体が新しいエネルギーシステムに適応しようと、一生懸命頑張っている証拠であり、大切なサインなんです。糖質制限中に眠くなるという現象は、決して珍しいことではなく、多くの人が通る道なんですよ。
私たちの体は、長年「糖質」をメインのガソリンとして活動してきました。それを急に制限するわけですから、体がびっくりしてしまうのも当然です。例えるなら、いつも使っている慣れた道を急に通行止めにされて、新しい迂回路を探しているような状態。最初は戸惑ってスピードが出せなくても、次第に新しい道に慣れて、スムーズに運転できるようになりますよね。体の中でも、まさに同じようなことが起こっているんです。
この記事では、糖質制限中に眠くなる、ちょっとマニアックだけれど知れば納得の理由を4つ、徹底的に、そして分かりやすく解説していきます。
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機能性低血糖: 脳が「お腹すいた!」と勘違い?
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ケトーシスへの移行: 体が省エネモードに切り替え中!
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GABAの増加: 食事が変わってリラックスしすぎ?
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電解質不足: 意外な水分不足の落とし穴
これらの眠くなるメカニズムを知ることで、「ああ、だから眠かったんだ!」と原因が分かり、漠然とした不安が解消されるはずです。そして、正しく対処すれば、この眠気は必ず乗り越えられます。むしろ、この眠気は糖質制限が順調に進んでいる証拠とさえ言えるかもしれません。
これからあなたの体の中で何が起きているのか、一緒に詳しく見ていきましょう。この知識があれば、あなたはもっと安心して、そして効果的に糖質制限を続けていくことができるようになりますよ!
2. 糖質制限で眠くなる理由①:機能性低血糖
糖質制限を始めて多くの方が最初に感じる眠気、その最も大きな原因の一つが、この「機能性低血糖」と呼ばれる状態です。なんだか難しそうな言葉ですが、簡単に言うと「脳が一時的にエネルギー不足だと勘違いしている状態」のこと。血糖値の数値自体は正常でも、脳がハンガーストライキを起こして、眠気や集中力の低下といったサインを出してくるんです。糖質制限と眠くなる関係を解き明かす、最初のカギがここにあります。
脳のエネルギー源「ブドウ糖」の役割
まず、私たちの脳がどれだけ「糖質」を愛しているか、というお話からさせてください。体中の様々な臓器の中でも、脳はトップクラスの大食漢です。重さは体重のわずか2%ほどしかありませんが、なんと体全体の総エネルギー消費量の約20%を占めているんです。そして、その脳が平常時に唯一のエネルギー源としているのが、糖質が分解されてできる「ブドウ糖」なのです。
成人女性の場合、脳は1日に約120gものブドウ糖を消費すると言われています。これは、ご飯お茶碗に山盛り2杯分以上に相当する量です。私たちは普段、ご飯やパン、麺類、お菓子やジュースといった形で糖質を摂取し、それが消化されてブドウ糖となり、血液に乗って脳へと運ばれていきます。脳は、この安定したブドウ糖の供給があることを前提に、フル回転で働いてくれているわけですね。
ところが、糖質制限を始めると、このメインエネルギーであるブドウ糖の供給がガクンと減ります。脳からしてみれば、「あれ?いつも届くはずのエネルギーが来ないぞ!どうしたんだ!?」と大パニック状態。これが、糖質制限初期に頭がぼーっとしたり、強い眠気を感じたりする大きな理由の一つです。体が新しいエネルギー源(後述するケトン体)を上手に使えるようになるまでの間、脳は一時的なエネルギー切れを起こしてしまうのです。
機能性低血糖とは?血糖値のジェットコースター
ここで重要になるのが「機能性低血糖」という考え方です。通常、「低血糖」というと、血糖値が70mg/dL以下になるような、医学的に危険な状態を指します。しかし、機能性低血糖は、血液検査をしても血糖値は正常範囲内(例えば80mg/dLや90mg/dL)であることがほとんどです。
では、なぜ眠くなるのでしょうか?それは、血糖値の「絶対値」ではなく「変動の幅」が問題だからです。特に、糖質制限を始めたばかりの方や、「ゆるい糖質制限」を自認している方に起こりやすい現象です。
例えば、こんな食生活を想像してみてください。
「朝食はプロテインだけ。でも、お昼は同僚とランチでパスタセット。午後は眠くなるからお菓子は我慢したけど、夜は付き合いでビールと唐揚げ…」
一見、糖質を意識しているように見えますよね。しかし、これは血糖値の観点から見ると、非常に不安定な状態を招きやすいのです。パスタのような精製された炭水化物を単品で食べると、血糖値は急上昇します。すると、体は血糖値を下げようと、すい臓から「インスリン」というホルモンを大量に分泌します。このインスリンの働きで血糖値は急降下。この「血糖値のジェットコースター」こそが、機能性低血糖による眠気の正体です。
アメリカのハーバード大学医学部の研究などでも、血糖値の急激な変動が、認知機能の低下や疲労感、眠気を引き起こす可能性が示唆されています。血糖値が急降下するタイミングで、脳は「エネルギーが足りない!」と危険信号をキャッチし、活動レベルを落として体を守ろうとします。その結果として、私たちは抗えないほどの強い眠気を感じてしまうのです。
つまり、糖質を「ゼロ」にするのではなく「中途半半端に」摂取してしまうと、かえって血糖値の乱高下を招き、結果的に「糖質制限をすると眠くなる」という状況を作り出してしまうことがある、というわけですね。
機能性低血糖への具体的な対策
では、この血糖値のジェットコースターによる眠気を防ぐためには、どうすれば良いのでしょうか。いくつか具体的な対策をご紹介します。
対策1:食事の順番を工夫する「ベジファースト」
もし糖質を摂る場合は、食事の順番を意識するだけで、血糖値の上昇をかなり穏やかにすることができます。具体的には、食物繊維が豊富な野菜やきのこ、海藻類から先に食べる「ベジファースト」を徹底することです。
食物繊維は、後から入ってくる糖質の消化・吸収を遅らせる働きがあります。これにより、血糖値の上昇カーブが緩やかになり、インスリンの過剰な分泌を抑えることができます。サラダや具沢山のスープ、おひたしなどを食事の最初にゆっくりよく噛んで食べる習慣をつけましょう。それから、タンパク質や脂質(肉や魚)、最後にご飯やパンといった炭水化物を食べるようにすると、同じものを食べても血糖値の変動は大きく変わってきます。これは、糖質制限中に限らず、普段の食生活でもぜひ取り入れたいテクニックですね。
対策2:良質な脂質を味方につける
糖質制限の主役は、糖質の代わりにエネルギー源となる「脂質」です。そしてこの脂質は、血糖値を安定させる上でも非常に重要な役割を果たします。脂質は、糖質と違って血糖値をほとんど上昇させません。それどころか、食事に良質な脂質をプラスすることで、胃の中に食べ物が滞留する時間が長くなり、糖質の吸収をより穏やかにしてくれる効果があるのです。
例えば、サラダにはオリーブオイルやアマニオイルをたっぷりかけたドレッシングを。コーヒーにはグラスフェッドバターやMCTオイルをプラスして「バターコーヒー」に。おやつにはチーズやナッツ、アボカドなどを選ぶ。このように、良質な脂質を積極的に食事に取り入れることで、空腹感を抑え、血糖値を安定させ、結果的に日中の眠気を防ぐことにつながります。糖質制限で眠くなるのを防ぐには、良質な脂質を恐れずにしっかり摂ることが、実はとても大切なのです。
対策3:「中途半端」を見直す
もしあなたが「なんだかいつも眠い…」と感じているなら、一度ご自身の糖質制限のやり方を見直してみるのも良いかもしれません。「お米は抜いているけど、春雨スープはOKにしている」「果物はヘルシーだから食べている」「調味料の糖質は気にしていない」など、自分では気づかないうちに、血糖値を揺さぶる「隠れ糖質」を摂っている可能性があります。
もちろん、どのレベルの糖質制限を目指すかは人それぞれです。しかし、もし機能性低血糖による眠気に悩まされているのであれば、一度、調味料も含めて糖質を厳格に管理する「スーパー糖質制限(1食の糖質量20g以下)」を1〜2週間試してみるのも一つの手です。そうすることで、血糖値の乱高下がなくなり、体がスムーズに次のエネルギーシステム(ケトーシス)へ移行しやすくなることがあります。
糖質制限で眠くなるのは、体が変化しようとしている証拠。まずはこの「機能性低血糖」を理解し、血糖値を安定させる工夫を取り入れてみてくださいね。
3. 糖質制限で眠くなる理由②:ケトーシスへの移行
糖質制限による眠気の2つ目の理由は、体が新しいエネルギーシステムへと移行する過程で起こる、いわば「エネルギー切り替え中のタイムラグ」です。この状態は「ケトーシス」と呼ばれ、糖質制限が順調に進んでいる証拠でもあるのですが、体が慣れるまでは一時的にエネルギー不足に陥り、強い眠気を感じることがあります。ガソリン車から電気自動車に乗り換えた直後の、慣れない運転のようなもの、とイメージすると分かりやすいかもしれません。
新エネルギー「ケトン体」が作られるまで
私たちの体は本当によくできていて、メインのエネルギー源であるブドウ糖が枯渇すると、ちゃんと代替エネルギーを作り出すシステムが備わっています。その代替エネルギーこそが「ケトン体」です。ケトン体は、主に肝臓で「脂肪」を分解することによって作られます。つまり、糖質制限とは、体を「ブドウ糖を燃やすモード」から「脂肪を燃やしてケトン体を作り出すモード」へと切り替える食事法なのです。この状態を「ケトーシス」と呼びます。
このケトーシスへの移行は、一瞬で完了するわけではありません。いくつかのステップを踏んで、体は少しずつ変化していきます。
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グリコーゲンの枯渇(〜24時間):まず、糖質制限を始めると、肝臓や筋肉に貯蔵されていた「グリコーゲン(ブドウ糖の貯蔵形態)」がエネルギーとして使われます。このグリコーゲンは、通常24時間程度で枯渇します。
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糖新生(数日間):グリコーゲンがなくなると、体は筋肉(アミノ酸)や脂肪(グリセロール)を分解して、なんとかブドウ糖を作り出そうとします。これを「糖新生」と呼びます。しかし、これは非常に効率の悪いエネルギー産生方法であり、あくまで一時的なつなぎのシステムです。この時期に、だるさや倦怠感を感じる人もいます。
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ケトン体生成の本格化(数日〜1週間後):糖新生だけではエネルギーが追いつかないと判断した体は、いよいよ本格的に脂肪を分解して「ケトン体」を作り始めます。肝臓で生成されたケトン体は、血液に乗って全身に運ばれ、脳や心臓、筋肉などのエネルギー源として利用されるようになります。
このケトン体には、主に「アセト酢酸」「β-ヒドロキシ酪酸」「アセトン」の3つの種類があります。特に「β-ヒドロキシ酪酸」は、脳のエネルギー源として非常に優秀で、ブドウ糖がなくても脳の機能をパワフルにサポートしてくれることが分かっています。糖質制限を続けていると頭がスッキリして集中力が増す、と言われるのは、このβ-ヒドロキシ酪酸のおかげなのです。
通過儀礼?「ケトフルー」の正体
問題は、体がこの優秀なエネルギー源である「ケトン体」を、上手に使いこなせるようになるまでに少し時間がかかる、という点です。脳をはじめとする各器官が、ケトン体をエネルギーとして利用するための代謝経路を再整備し、最適化する必要があるからです。この、体がケトーシスに適応するまでの移行期間に現れる、一時的な不調のことを「ケトインフルエンザ」、略して「ケトフルー」と呼びます。
ケトフルーの症状は、まさに風邪のひき始めのようです。
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強い眠気、倦怠感
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頭痛
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吐き気、胃のむかつき
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集中力の低下、頭がぼーっとする
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イライラ感
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筋肉痛、足がつる
これらの症状は、「糖質制限が体に合わないんだ!」と勘違いしてしまいがちですが、そうではありません。これは、体が新しい燃料(ケトン体)に慣れようと必死に頑張っている証拠。エネルギーの変換がうまくいかず、一時的にガス欠のような状態になっているために、眠くなるなどの不調が現れるのです。
このケトフルーの期間は、個人差が非常に大きいですが、一般的には糖質制限を開始してから2〜3日後から始まり、短い人で数日、長い人でも1〜2週間程度で自然と治まっていくことがほとんどです。この期間を乗り越えると、まるで霧が晴れたように頭がクリアになり、体が軽く、エネルギッシュになったと感じる方が非常に多いです。まさに、糖質制限の成功への「通過儀礼」と言えるでしょう。
ちなみに、このケトン体をエネルギー源とする食事法(ケトン食)は、決して新しいものではありません。1920年代に、米国のジョンズ・ホプキンス大学病院で、小児の難治性てんかんの治療法として開発されたという長い歴史があります。適切に行えば、体のエネルギー代謝を根本から変える、非常にパワフルなアプローチなのです。
ケトフルーを乗り切るための実践テクニック
この辛いけれど大切な移行期間であるケトフルーを、できるだけ楽に、そして早く乗り切るためには、いくつかのコツがあります。「糖質制限で眠くなる」のが辛いと感じたら、ぜひ試してみてください。
対策1:とにかく水分と塩分(ナトリウム)を摂る
ケトフルーの不調の多くは、脱水と電解質不足(特にナトリウム不足)によって引き起こされます(これについては次の章でさらに詳しく解説します)。糖質制限を始めると、体から水分が抜けやすくなるため、意識的に水分補給をすることが非常に重要です。1日に2リットル以上を目安に、こまめに水を飲みましょう。
そして、水だけを大量に飲むと、かえって体内のミネラルバランスが崩れてしまいます。必ず「塩分」も一緒に補給してください。具沢山の味噌汁や、鶏ガラや牛骨で出汁をとったボーンブロススープは、水分とミネラルを同時に補給できる最高のケトフルー対策ドリンクです。外出先で手軽に済ませたいなら、水筒の水にひとつまみの良質な塩(岩塩や海塩など)を溶かして持ち歩くのもおすすめです。
対策2:MCTオイルでエネルギーブースト
ケトーシスへの移行をスムーズにし、エネルギー不足による眠気を解消する強力な助っ人が「MCTオイル(中鎖脂肪酸油)」です。ココナッツオイルやパーム核油から抽出されるMCTオイルは、一般的な油(長鎖脂肪酸)と比べて消化・吸収が早く、肝臓で直接ケトン体に変換されやすいという特徴があります。
つまり、MCTオイルを摂取すると、体はすぐにエネルギーとして使えるケトン体を手に入れることができるのです。これにより、ケトフルー期間中のエネルギー不足を補い、頭がぼーっとする感覚や眠気を和らげてくれます。
朝のコーヒーや紅茶、味噌汁やスープなどに小さじ1杯程度から加えてみましょう。ただし、一度にたくさん摂るとお腹が緩くなることがあるので、少量から始めて、徐々に体を慣らしていくのがポイントです。
対策3:無理せず、体を休ませる
ケトーシスへの移行期間は、体の中で大きな代謝革命が起きている時期です。そんな時に無理は禁物。普段より睡眠時間を長く確保したり、激しい運動は控えてウォーキングやストレッチなどの軽い運動に切り替えたりと、意識的に体を休ませてあげましょう。体が新しいエネルギーシステムを構築するのを、焦らずに待ってあげることが大切です。
糖質制限で眠くなるのは、体がケトーシスという新しいステージに進もうとしているサイン。辛い時期ですが、適切な対策をとって、上手に乗り越えていきましょう!
4. 糖質制限で眠くなる理由③:GABAの増加
ここまでの2つの理由は、体がエネルギー不足になることで眠くなる、というお話でした。しかし、3つ目の理由は少し毛色が違います。なんと、糖質制限による食事内容の変化が、脳内に「リラックス物質」を増やしてしまい、その結果として眠気を引き起こしている可能性があるのです。そのリラックス物質の名前は「GABA(ギャバ)」。チョコレートやサプリメントなどで耳にしたことがある方も多いかもしれませんね。
リラックス物質「GABA」とは?
まず、GABA(正式名称:γ-アミノ酪酸、ガンマ-アミノらくさん)が、私たちの心と体にどのような働きをするのかを見ていきましょう。GABAは、脳や脊髄に存在する「抑制性の神経伝達物質」です。
私たちの脳内には、アクセルの役割をする「興奮性」の神経伝達物質(グルタミン酸など)と、ブレーキの役割をする「抑制性」の神経伝達物質があります。GABAは、このブレーキ役の代表選手。脳の興奮を鎮め、神経をリラックスさせることで、以下のような効果をもたらします。
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ストレスの緩和、不安感の軽減
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心拍数や血圧を落ち着かせる
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睡眠の質を高める(寝つきを良くする、深い眠りを促す)
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リラックス効果
GABAが不足すると、脳の興奮が抑えきれなくなり、イライラしたり、不安になったり、なかなか寝付けなくなったりします。逆に、GABAが優位に働いている時は、心身ともに穏やかで落ち着いた状態になります。つまり、GABAは私たちが穏やかな毎日を送るために欠かせない、大切な物質なのです。
なぜ糖質制限でGABAが増えるのか?
では、なぜ糖質制限をすると、このリラックス物質であるGABAが増えるのでしょうか?その答えは、糖質制限中の食事内容に隠されています。
糖質制限を始めると、お米やパンなどの主食を控える代わりに、肉、魚、卵、チーズ、大豆製品といった「タンパク質」が豊富な食品をたくさん食べるようになりますよね。このタンパク質こそが、GABAの材料を体に供給する源なのです。
体内でGABAが作られるプロセスは、以下のようになっています。
タンパク質 →(消化・分解)→ アミノ酸 → グルタミン酸 →(酵素の働き)→ GABA
食事から摂ったタンパク質は、体内で様々な種類のアミノ酸に分解されます。そのアミノ酸の一つに「グルタミン酸」があります。このグルタミン酸は、脳内では興奮性の神経伝達物質として働く一方で、「グルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)」という酵素の働きによって、抑制性の神経伝達物質であるGABAへと変換されるのです。
つまり、糖質制限によってタンパク質の摂取量が増えると、GABAの原料となるグルタミン酸も豊富に供給されることになります。その結果、体内で生成されるGABAの量が増加し、日中でも脳がリラックスモードに入りやすくなる。これが、糖質制限中に「なんだか眠いな」「ぼーっとするな」と感じる、意外な理由の一つとして考えられるのです。
実際に、九州大学などの研究では、GABAを経口摂取することで、ストレスを感じている人の精神的な疲労感が軽減されたり、睡眠の質が改善されたりといった効果が報告されています。糖質制限による食事の変化が、知らず知らずのうちに、サプリメントを摂っているかのように体内のGABA濃度を高め、眠気を誘っているのかもしれません。これは、糖質制限がもたらす、ある意味で嬉しい副作用とも言えるかもしれませんね。
GABAと上手につきあう食事の工夫
GABAが増えること自体は、ストレス社会で戦う私たちにとって、決して悪いことではありません。むしろ、精神的な安定につながるポジティブな変化です。しかし、日中の活動時間帯に眠くなるのは困りますよね。そこで、GABAによる眠気と上手につきあうための工夫をいくつかご紹介します。
対策1:食事のタイミングと内容を調整する
もし日中の眠気が特に強いと感じるなら、食事の構成を少し見直してみるのも良いでしょう。例えば、タンパク質が非常に豊富な食事(ステーキやプロテインシェイクなど)は、活動量が減ってくる夕食に重点的に摂るようにし、昼食はもう少し軽めにする、といった工夫です。
また、GABAの生成には、補酵素として「ビタミンB6」が必要です。ビタミンB6は、タンパク質の代謝に不可欠な栄養素で、グルタミン酸からGABAが作られる際にも重要な役割を果たします。ビタミンB6は、鶏肉、マグロ、カツオ、サケ、牛レバー、ピスタチオなどに多く含まれています。これらの食材を意識的に食事に取り入れることで、タンパク質の代謝やGABAの生成がスムーズに行われるようサポートできます。(※バナナにも豊富ですが、糖質が高めなので注意が必要です)
対策2:日中の活動量を意識的に増やす
GABAによるリラックス効果に負けないよう、日中は意識的に交感神経を優位にする活動を取り入れるのも効果的です。例えば、ランチの後にオフィスの周りを10分ほど早歩きで散歩する、仕事の合間に軽いストレッチやスクワットをする、冷たい水で顔を洗うなど、体に少し刺激を与えてあげましょう。
じっと座っている時間が長いと、GABAのリラックス効果も相まって、どんどん眠気の沼にはまってしまいます。少し体を動かすだけで、血流が良くなり、脳がシャキッと目覚めます。糖質制限で眠くなるのを防ぐには、食事だけでなく、こうした生活習慣の工夫も大切です。
対策3:ポジティブな変化と捉える
最後に、最も大切なことかもしれません。糖質制限で眠くなる原因がGABAの増加にあると知れば、「ああ、私の体は今、リラックスモードなんだな」「ストレスが緩和されている証拠なんだな」と、少しポジティブに捉えることができるのではないでしょうか。
エネルギー不足による眠気とは違い、GABAによる眠気は、心身が安定しているサインでもあります。このリラックス効果を夜の快眠に活かせれば、日中のパフォーマンスはむしろ向上するはずです。原因が分かれば、漠然とした不安もなくなりますよね。糖質制限がもたらす、思わぬリラックス効果。これも体からの興味深いサインの一つなのです。
5. 糖質制限で眠くなる理由④:電解質不足
糖質制限で眠くなる4つ目の理由、そして非常によくある、しかし見落とされがちな原因が「電解質不足」です。特に、「水分はしっかり摂っているはずなのに、なぜか体がだるくて眠い」という方は、この可能性を疑ってみる価値があります。体内のミネラルバランスの乱れが、あなたのパフォーマンスを低下させているのかもしれません。
体の潤滑油「電解質」の役割
「電解質(でんかいしつ)」という言葉、スポーツドリンクのCMなどで聞いたことがあるかもしれませんね。電解質とは、水に溶けると電気を通す性質を持つミネラルのことです。私たちの体液(血液や細胞内の液体など)にも、この電解質が一定の濃度で含まれており、生命活動を維持するために極めて重要な役割を担っています。
まさに、体の機能をスムーズに動かすための「潤滑油」のような存在。代表的な電解質とその働きを見てみましょう。
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ナトリウム(Na):主に細胞の「外」に存在し、体内の水分バランスを調整する中心的な役割を担います。また、神経細胞が情報を伝達したり、筋肉が収縮したりする際にも不可欠です。不足すると、脱水症状、低血圧、疲労感、頭痛、意識障害などを引き起こします。
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カリウム(K):主に細胞の「内」に存在し、ナトリウムと対になって働きます(ナトリウム-カリウムポンプ)。心臓の筋肉を含む、全身の筋肉の正常な働きや、血圧の調整に関わっています。不足すると、筋力低下、不整脈、手足のしびれ、そして強い倦怠感や眠気の原因となります。
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マグネシウム(Mg):体内で起こる300種類以上もの酵素反応をサポートする、縁の下の力持ちです。エネルギーの産生(ATP産生)、タンパク質の合成、筋肉の弛緩、神経伝達の調整など、その働きは多岐にわたります。不足すると、筋肉のけいれん(こむら返り)、疲労感、無気力、不眠、そして眠気を引き起こします。
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カルシウム(Ca):骨や歯を丈夫にする働きが有名ですが、それ以外にも血液の凝固、筋肉の収縮、ホルモンの分泌など、重要な役割を担っています。
これらの電解質は、それぞれが絶妙なバランスを保ちながら協力し合って働いています。どれか一つでも不足したり、バランスが崩れたりすると、体のシステムは正常に機能できなくなり、結果として原因不明のだるさ、疲労感、そして抗えない眠気といった症状として現れるのです。
糖質制限が電解質不足を招くメカニズム
では、なぜ糖質制限をすると、この大切な電解質が不足しやすくなるのでしょうか?そこには、2つの大きな理由があります。
理由1:水分の大量排出に伴う流出
これが最大の理由です。前の章でも少し触れましたが、糖質は体内で「グリコーゲン」という形で肝臓や筋肉に貯蔵される際、多くの水分と結合する性質があります。具体的には、グリコーゲン1gあたり、約3〜4gの水分を抱え込むと言われています。
糖質制限を始めると、体はまずこの貯蔵グリコーゲンを分解してエネルギーとして使います。その際に、グリコーゲンが抱え込んでいた大量の水分が放出され、尿として体外へ排出されます。糖質制限を始めてすぐに体重がストンと2〜3kg落ちることがありますが、これは脂肪が燃えたのではなく、この水分が抜けたことによるものが大きいのです。
問題は、この水分が排出される際に、ナトリウムやカリウムといった水溶性の電解質も一緒に流れ出てしまうこと。これが、糖質制限中に電解質不足が起こりやすい、最も直接的なメカニズムです。むくみが取れてスッキリするのは嬉しい効果ですが、その裏では大切なミネラルが失われている可能性があることを、覚えておく必要があります。
理由2:インスリン濃度の低下によるナトリウム排出促進
もう一つの理由は、ホルモンバランスの変化です。糖質を摂取すると、血糖値を下げるために「インスリン」が分泌されます。このインスリンには、実は腎臓に対して「ナトリウムを再吸収して、体内に保持するように」と命令する働きもあります。
しかし、糖質制限を行うと、血糖値の上昇がほとんどなくなるため、インスリンの分泌も低く抑えられます。すると、腎臓に対するナトリウム保持の命令が弱まり、腎臓はナトリウムをどんどん尿として排出してしまうのです。
このように、糖質制限中は「水分の排出」と「インスリンの低下」というダブルパンチで、特にナトリウムが失われやすい状態になっています。そして、ナトリウムが不足すると、体はバランスを取るためにカリウムも排出しようとするため、負の連鎖が起こってしまうのです。
「眠い」と感じたら試したい電解質チャージ術
もし、あなたの眠気が「体が重だるい」「やる気が出ない」「時々、足がつる」といった症状を伴うなら、それは電解質不足のサインかもしれません。以下の対策をすぐに試してみてください。驚くほど体が楽になることがありますよ。
対策1:とにかく「良い塩」をしっかり摂る
糖質制限中のだるさや眠気対策で、最も即効性があり、かつ重要なのが「ナトリウム」の補給です。減塩が健康の常識とされていますが、それはあくまで糖質をたくさん摂っている人の話。糖質制限中は、むしろ意識して塩分を摂る必要があります。食卓塩のような精製塩ではなく、ミネラルが豊富に含まれた岩塩、海塩、湖塩などを選びましょう。
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味噌汁やスープを毎食飲む: 最も手軽で効果的な方法です。
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食事の味付けをしっかりする: 恐れずに、美味しいと感じる塩加減にしましょう。
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梅干しや漬物(糖質の少ないもの)を食べる。
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水にひとつまみの塩を入れて飲む。
1日の塩分摂取量の目安は、厚生労働省の基準では女性で6.5g未満とされていますが、糖質制限中はこれにこだわらず、体調を見ながら調整することが大切です。
対策2:カリウムとマグネシウムを食品から摂る
ナトリウムだけでなく、カリウムやマグネシウムも意識して補給しましょう。これらは糖質制限中でも食べられる、身近な食品に豊富に含まれています。
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カリウムが豊富な食品: アボカド(カリウムの王様!)、ほうれん草、ブロッコリー、きのこ類、サバ、ナッツ類(アーモンド、ピスタチオなど)
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マグネシウムが豊富な食品: アーモンド、ほうれん草、アボカド、豆腐、サバ、カカオ分70%以上のチョコレート、カカオニブ
これらの食品を日々の食事に積極的に取り入れることで、ミネラルバランスを整えることができます。
対策3:手作り電解質ドリンクやサプリメントを活用する
それでも不調が改善しない場合や、手軽に補給したい場合は、サプリメントや手作りドリンクを活用するのも賢い方法です。
【簡単!手作り電解質ドリンク レシピ】
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水:500ml
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天然塩(岩塩など):小さじ1/4〜1/2
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レモン汁:大さじ1〜2(クエン酸が疲労回復を助けます)
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(お好みで)液体マグネシウムやマグネシウムパウダーを少量
これらを混ぜるだけで、市販のスポーツドリンク(糖質が多い)よりもずっとヘルシーで効果的な電解質ドリンクが完成します。
マグネシウムは食事だけでは不足しがちなミネラルなので、サプリメントで補うのも非常に有効です。吸収率の良いクエン酸マグネシウムやグリシン酸マグネシウムなどがおすすめです。
糖質制限で眠くなるのは、エネルギーの問題だけではありません。この電解質という体の潤滑油が不足している可能性を、ぜひ覚えておいてくださいね。
6. まとめ:糖質制限中に眠くなるのは正常な反応!
さて、今回は糖質制限中に急に眠くなる、そのちょっとマニアックで、でも知れば納得の4つの理由について、かなり詳しく解説してきました。もう一度、ポイントをおさらいしてみましょう。
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理由① 機能性低血糖: 脳が一時的にエネルギー不足だと勘違いしている状態。特に中途半端な糖質制限は血糖値の乱高下を招き、眠気の原因になりやすい。
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理由② ケトーシスへの移行: 体が脂肪を燃やす「ケトン体」を新しいエネルギー源として使えるようになるまでの、一時的な適応期間(ケトフルー)。体がガス欠のようになり眠くなる。
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理由③ GABAの増加: 糖質制限で増えるタンパク質が、リラックス効果のある神経伝達物質「GABA」の材料となり、日中でもリラックスモードになって眠気を感じやすくなる。
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理由④ 電解質不足: 糖質制限による水分排出に伴い、体の潤滑油であるナトリウムやカリウムなどのミネラル(電解質)が失われ、だるさや疲労感、眠気を引き起こす。
いかがでしたでしょうか?「なんだか分からないけど眠い…」という漠然とした不安が、「なるほど、私の体の中では今、こういう変化が起きているんだな」という納得に変わったのではないでしょうか。
そう、糖質制限中に眠くなるのは、あなたが怠けているわけでも、やり方が間違っているわけでもありません。そのほとんどが、あなたの体が一生懸命、新しい環境に適応しようと頑張っている過程で起こる、極めて正常な反応なのです。
この眠気は、多くの場合、一時的なものです。体がケトン体をエネルギーとして効率よく使えるようになり、ミネラルバランスが整ってくれば、この眠気は嘘のように消えていきます。そしてその先には、以前よりも頭がスッキリと冴えわたり、体も軽く、一日中エネルギッシュに活動できる、新しいあなたが待っているはずです。
この移行期間を上手に、そして少しでも楽に乗り切るための合言葉は、「水分、塩、脂質」です。
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水分をしっかり飲むこと(1日2L以上を目安に)。
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良質な塩(天然塩)やミネラルを意識的に補給すること。
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エネルギー源となる良質な脂質(MCTオイル、アボカド、オリーブオイルなど)を恐れずに摂ること。
そして何より、焦らないことです。あなたの体は、あなたが思っている以上に賢く、素晴らしい適応能力を持っています。その体の声に耳を傾け、「今は変化の時なんだな」と優しく受け止めてあげてください。眠い時は無理せず少し休憩したり、その日は早めに休んだりすることも大切です。
糖質制限は、単なるダイエット法ではなく、自分の体と深く向き合う素晴らしい機会でもあります。今回ご紹介した知識が、あなたの健康的な糖質制限ライフを、より安心して、そして楽しく続けるための一助となれば、私にとってこれほど嬉しいことはありません。
この眠気のトンネルを抜けた先にある、クリアでパワフルな毎日を目指して、ご自身のペースで、一歩一歩進んでいきましょう!応援しています。

大学を卒業後、酒類・食品の卸売商社の営業を経て2020年2月に株式会社ブレーンコスモスへ入社。現在は「無添加ナッツ専門店 72」のバイヤー兼マネージャーとして世界中を飛び回っている。趣味は「仕事です!」と即答してしまうほど、常にナッツのことを考えているらしい。